黒部の山賊
〜アルプスの怪〜
伊藤正一著 実業ノ日本社
山岳著書のベストセラー
……黒部でイワナを釣って三俣小屋に泊まったところ、うわさの通りの山賊の親子がいた。その夜は難なく床につく事ができたと思ったのもつかの間、山賊は彼の枕元ですごい山刀を研ぎ始めた。気味悪くなって神経をそば立てている彼の耳に、山賊たちの話し声が、とぎれとぎれに聞こえてきた。
「殺っちまおうか」
「どうやって」
「首ったまを刺せばいいさ」
「いつやる」
「朝にしようか」
「にがすなよ」
恐ろしさのあまり、歯がガクガクとして合わなくなった……
(本書『黒部の山賊』より)
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