03 植生復元活動を進める上での社会的問題 | 雲ノ平植生復元活動 | 北アルプス黒部源流 | 三俣山荘・雲ノ平山荘・水晶小屋
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■雲ノ平植生復元活動

03 植生復元活動を進める上での社会的問題

社会的問題の概説

日本では山の自然に対する興味関心は高いものの、自然保護制度や登山道の管理実態など山岳地の社会環境に対する関心や理解が低い状況です。これは自然保護制度に関わる行政の複雑さに加え、登山道の存在と管理実態が曖昧という国立公園が置かれている現状を共有されてこなかったことが問題背景にあると言えます。

山小屋

まえがきでも触れたように、これまでは歴史的な経緯により登山道の整備を含め、国立公園における多くの公益的機能を山小屋が担ってきました。しかし各地で、長年の酷使やゲリラ豪雨などの異常気象も影響して登山道の荒廃が急速に深刻化する中、恒久的に山小屋だけで登山道を維持管理していくことは困難です。従業員が3人しか いない山小屋と同30 人いる山小屋が同等の広大なエリアの登山道を 整備している、という事実からも その仕組みの危うさは容易に理解 することができるでしょう。登山道 の状態は登山者数に加え、地質や 気象条件など、複合的な要因が強 く作用して明暗を分けるため、奥 地の小さな山小屋の周辺だからといって安定している訳ではないのです。また、多くの場合登山道の維持管理のノウハウを持っているのは各山小屋の小屋主や支配人などのごく限られた人間のため、その個人が病気や事故など不測の事態に見舞われてしまうと、満足に引き継げる人材がいないことも考慮するべき事柄です。

この状況を助長する要因として、昨今の山小屋の経営環境の変化もあります。設備費、資材運搬費等の著しい高騰、登山者の減少(あるいは小屋泊が減りテント泊に移行している)、深刻な人材不足(ブームでも山小屋で働きたいと思う人は減少している)など、山小屋経営を取り巻く状況は不透明感を増しつつあります。もしかすると現存の山小屋が老朽化して建て替えようとした時、山小屋の建設は事実上採算の取れない事業になってしまう可能性さえあるのです。様々な意味において、山小屋にとって登山道の維持管理が能力の限界を超えつつある今、本来公共の財産である国立公園の管理について新しいあり方を考える時期がきています。

行政

 国立公園内に存在する登山道は、登山者にとって登山をする上で重要な公園施設です。本来、登山道は環境省の国立公園事業として設置され維持管理されるべきですが、多くの登山道が国立公園に指定される前から存在していたことも影響して「自然発生的にできた道」として扱われており、管理責任の所在が曖昧になっています。登山者の踏み荒らしにより登山道沿いに発生した裸地に対しても同様なことが言え、植生復元に向けて積極的に関わる行政主体が存在しません。この問題の背景には、国立公園の管理者は環境省、地主は林野庁、天然記念物は文化庁、河川は国土交通省といったように、目的が一致しない官庁が混在し、国立公園という単位で意思の統一を図れない、いわゆる縦割り行政の弊害があります。

また、登山道管理や植生復元の工事を公園事業として行った場合、一般的には競争入札による業者選定が行われます。しかし制度上山岳地という特殊環境下に対応できる業者が必ず選定されるわけではないため、環境に配慮した工事にならないことも少なくありません。一方、公園事業を管理する行政側も、北アルプス全域に対して環境省の自然保護官が5人しかいない事からもわかるように体制が脆弱であり、その人材さえも人事の定期異動により2、3年で入れ替わってしまうなど、自然環境の評価や管理が行えるエキスパートを育てる仕組みを有していません。単年度毎(に使い切らなければならない)の予算制度も相まって、(例えば植生復元事業と銘打っても事後の学術調査は行われないなど)総体として事業の継続が担保される仕組みになっていないのが現状です。

登山道や人為的に発生した裸地の存在は認めるが、各行政が持つ法制度に照らし合わせても自然保護や環境保全を直接扱う法律がないことと、学術的な自然資源の管理、水準及び手法の確立が不十分なこと、更には事業対象地での登山者の事故の際に管理者が何らかの責任を問われてしまうことを回避したいという風潮もあり、行政全体が登山道管理や植生復元の工事に対して消極的な姿勢になってしまっているのです。

大学(学術機関)

日本における自然環境に関する調査は、通称「緑の国勢調査」と呼ばれる自然環境保全基礎調査が1973年度からおよそ5年ごとに行われています。植生や動物分布に関して調査を行い、その結果は報告書及び地図等にとりまとめられ公表されています。この調査には、大学をはじめとする研究機関や民間企業が関わってきました。ところが、国立公園の自然環境の評価や管理を目的とした特別な自然環境調査はほとんど行われていないのが現状です。国立公園の自然環境に関する研究調査は、これまで研究者(大学教員)の興味テーマないし興味範囲で行う博物学的な研究(自然物についての収集および分類)が多く、必ずしも現場で求められるテーマとは限りませんでした。

特に大学に身を置く研究者の状況は、昨今の急激な大学改革を背景に、研究費や研究に従事できる時間の減少により、長期的な基礎データの収集や自然環境のモニタリングに関する研究の取り組みが困難になりつつあります。学術的な自然資源の管理、水準及び手法の確立には、大学や民間の調査機関に調査を依頼できるよう予算を講じるなど経済的支援や行政、民間、大学が協調的に調査を取り組む仕組みや体制づくりが必要となります。



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