04 雲ノ平で行った実行体制 | 雲ノ平植生復元活動 | 北アルプス黒部源流 | 三俣山荘・雲ノ平山荘・水晶小屋
雲ノ平 特集 トップに戻る

■雲ノ平植生復元活動

04 雲ノ平で行った実行体制

前述したように、現状では山岳地における植生復元事業(工事)を単独で担える主体(機関)は存在しないため、雲ノ平では民間(山小屋)、大学、行政による多様な主体の連携及び参画を図り、植生復元事業を進めてきました。各主体の特徴は、次の通りです。

山小屋(雲ノ平山荘)は、現場にもっとも近いことから雲ノ平の自然に対する造詣が深く、現場の観察や経験から得られる技術、知識(情報)を豊富に持ち合わせています。また、山小屋のスタッフの中から作業できる人員の供給も可能です。一方、植生復元事業を実施する上では経済的な基盤となる宿泊業という立場から、登山道整備に当てられる労働力、経済力に一定の限界があり、作業の規模によっては対応が難しくなります。

大学は、研究者の自由な意思に基づいて学術研究とそれに付帯する学生教育の中で様々な活動を行うことができます。しかし研究者個人の興味範囲や学術調査目的の試験的な位置づけでしかできません。世論の形成が稀薄な山岳地の保全に関する研究に対して、予算が取りづらい現状もあります。大局的に見ると、行政との協働体制や世論が存在しない限り、研究者が個人的に山岳地の保全活動に参入するべき、義務もメリットも生じないというのが現実です。

行政においては、雲ノ平に関わる主体は林野庁、環境省、富山県、富山市の4者が挙げられます。いずれの行政主体も関連する法令や管轄業務、行政内の協議等何らかの方法で対応することは可能ですが、公共事業による請負発注では現地に対応したきめ細かな施工実施ができません。また職員による実施やボランティアによる実行も、遠隔地であること、人員や予算の不足、エキスパートの不在などの問題が立ちふさがり困難です。 雲ノ平における植生復元事業は、関わる主体の役割と現状を整理した上で、相互補完的かつ普及可能な実行体制を築く試みでもあるのです。

背景と経緯

上記の実行体制が築かれるまでの背景と経緯は次の通りです。

2005年頃、雲ノ平の登山道沿いで植生荒廃が進行する中、日常業務の延長上で登山道管理を行うことの限界と国立公園の管理システムの現状に危惧した山小屋(雲ノ平山荘)と、興味範囲で行う研究ではなく山岳地における課題解決に直接かかわることができる社会的意義のある研究テーマないし研究対象地を模索していた大学(東京農業大学)の両者の意志が一致し、雲ノ平における植生復元プロジェクトが立ち上がりました。雲ノ平には様々な法律がかけられており、植生復元事業を進めるためには関係省庁の許可が必要となります。国立公園の管理は環境省が担当のため、2006年にまず環境省(出先機関である立山自然保護官事務所)へ相談しに行きました。

しかし日常的に登山道の整備を手掛けている(行政から依存されていると言って良い)山小屋も、いざ正式に法律の枠内で登山道整備の許認可を取得しようとすると、それを法的に位置付けて扱える仕組みはなく、大学が研究目的で自主的に願い出るという形も、当てはまる事業の仕組みがないから難しい、という返答でした。私たちが事前にGPS調査により測定した植生復元の対象面積は約5000㎡でしたが、ある一定以上の面積の事業になると環境大臣の許可が必要となる上に、ゼロ予算で事業化するにしても、民間の事業者に登山道整備や植生復元活動を行政が委託するという前例がないためできないとの事。即ち、許可なしの維持管理は是非やってほしい(やってもらわないと困る)が、正式には(より押し進めた形で活動したいというのは)認めない、(あるいは法律違反?)というわけです。また環境省には、地域に雇用を生み出しつつ、地域住民、団体等の知見を活用して自然公園の整備をするための「グリーンワーカー事業」というものがあります。山小屋が登山道整備の仕事を申告すると、その内の人件費の一部を行政が補助する仕組みになっており(少額ではあるが…)、この事業の申請は非常に簡便な為、今回の植生復元事業も形だけでもグリーンワーカー事業の枠組みを利用出来ないかを尋ねたところ、これについても不可能との返答。あくまでもグレーゾーンでしか登山道は扱えませんよ、と言わんばかりの状況が判明します。このやり取りを見るだけでも登山道にまつわる責任や権限の所在というのは、非常に不透明だということがわかると思います。(仕組みがあまりにも規制する事に偏っており、しかも責任を持つ行政組織も、登山道を物理的に扱う法体系も存在しない。その規制する仕組み故に民間事業者も付け入る隙がない、という八方塞がりな現状なのです。)

次に私たちは雲ノ平の土地の管理(地主)は林野庁であるため、林野庁の出先機関(富山森林管理署)に行きました。しかしここでも国有地(国有林野)では、営利目的の貸付※は行うが、営利が発生しない植生復元活動に対して貸付はできないと、取り付く島もありません。こちらはこちらで「国立公園」の文脈上の登山道整備を目的とした事業形態は存在しないというわけです。

しばらく硬直状態が続きましたが、私たちはその後も諦めず掛け合う中で、環境省からある提案を受けます。「それならば大臣の許可がなくても貸し付ける事ができる範囲」ということで、10㎡までならば許可しても良いと言うのです。10㎡といえば4畳半に毛が生えたくらいの面積であり、到底目的を達せられる条件ではありませんでしたが、兎にも角にも実績を残すことが重要だと考え、2006年の植生復元事業は試験的な実施という位置付けで、10㎡の範囲で活動を行いました。

そんな中状況が急に好転したのは2006年秋のことでした。その年の試験実施を終え、依然今後の植生復元事業の進め方を考えあぐねていたところ、当時自然保護官事務所にいたアクティブレンジャーからとある林野庁の職員を紹介されます。その職員は国立公園の現状に同情的な姿勢を持っており、当面の打開策として、各森林管理署の署長直属で実施できる流域管理推進アクションプログラム※に私たちの植生復元活動を組み込む事を提案してくれたのです。このプログラム(施策)は国有林を含んだ流域における幅広いソフト事業を対象とする柔軟性をもった施策であり、雲ノ平における植生復元事業との親和性が高かったのです。このことにより林野庁富山森林管理署の直轄事業として位置づけられ、林野庁が行政側のコーディネーター役となり、環境省管轄の自然公園法に対しても、富山県が管轄する保安林に対しても、協議という形で植生復元事業を正式に実現することが可能になったのです。

このように雲ノ平の実行体制は結果的には上手くいきました。しかし、雲ノ平で築いた体制は、普及可能な仕組みといえるものなのでしょうか?市民(民間)発動による国立公園における事業取り組みに対する真の共助が行えるよう、行政システムを根本から考え直す時期が来ているといえるでしょう。



※貸付とは
農林業をはじめとする地域産業の振興、住民の福祉の向上等を目的に、国有林野の土地を地方公共団体や民間業者に貸し、使用料を林野庁当局が受け取る制度のこと。

※グリーンワーカー事業
「国立公園等の貴重な自然環境を有する地域において、地域の自然や社会状況を熟知した地元の住民団体等により、地域の実情に対応した迅速できめ細やか自然環境保全活動を推進し、国立公園の管理のグレードアップを図ることを目的」にした事業。実際は余り予算の有効利用といった感が強く、予算は少ない。

※流域管理推進アクションプログラム
流域において民有林、国有林が連携して、森林の整備、森林づくりや林業、木材産業の振興を図ることを目的に、国有林に対する地域の要望やニーズ、流域の課題を的確に把握し、優先的に取組むべき課題を絞り込んで、重点的に実施する事業。加えて、「国民の森林」として地方自治体、ボランティア、NPO、一般企業等との多様な主体との連携、協力を持ちながら実施される。2013(平成25)年より「流域管理システムの推進に向けた署等の取組」に名称変更。

・環境省
前述したとおり国立公園内にある登山道は、公園計画図上において公園施設として位置づけられています。登山道沿いに発生した裸地の植生復元を行おうとすると、自然公園法の中で定められている行為規制に該当します。専門的には緑化ネットなどの資材を裸地に敷くと工作物の設置と見なされます。しかし登山道は自然発生道という認識なので、積極的な管理行為を行わない。むしろ責任、権限を発生させないよう、なるべく触れたくない施設(地物)といえます。

・林野庁
森林法はもともと森林の保続培養と森林生産力の増進を目的に、森林所有者は木を植え、育て、切って売る、ことを大前提とした法律です。この森林法の中で、登山道は施業や森林管理には直接的には関係のない施設(あるいは森林法上特に位置づけられていない地物)であるため、関与する余地がないといっても過言ではありません。
そもそも雲ノ平の地主はなぜ林野庁なのでしょうか? さかのぼること江戸時代初期、加賀藩は黒部峡谷から上流部を藩有林として、国境警備と盗伐監視を行っていました。明治の地租改正に伴い、藩有林は官有地(官林)となりました。1897(明治30)年に森林法が成立し、官林は国有林に名称が変わり、現在に至ります。(即ち、観光政策としての国立公園、資源管理、生産としての国有林は同じ土地に結びつきながらも、あくまでもねじれの関係として目的の異なる政策として並存し、さらには登山道という存在(の扱いを)を両者ともに明確に定義しない状態が続いているのです。しかし、そもそも木材資源のない高山地帯や、そもそも資源利用という選択肢がとれない国立公園(特別保護地区のみ)においてなぜガバナンスの非合理性を放置してまで林野庁が地主であり続ける必要があるのか、というと理由ははっきりしません。既得利権は手放さないのが当たり前、国益よりも官庁ごとのなわばり意識が優先されてしまう、というような不文律が立ちはだかっている現実があります。)

・都道府県
森林法に関連して、国土保全上重要な流域内にある森林に対して水源の涵養、土砂の崩壊その他の災害の防備を目的に保安林を指定することができます。雲ノ平においても保安林が指定されています。登山道沿いに発生した裸地の植生復元を行おうとすると保安林制度で定めるところの土地の形質の変更に該当します。保安林に関する業務は都道府県が行うため、保安林内における植生復元事業では都道府県知事の許可が必要となります。保安林の制度は森林保護(伐採をさせないこと)を目的としているため、登山道を取り扱う位置づけは存在していません。



ページトップ