雲ノ平植生復元活動 | 北アルプス黒部源流 | 三俣山荘・雲ノ平山荘・水晶小屋
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■雲ノ平植生復元活動

01 雲ノ平植生復元活動●雲ノ平山荘:伊藤二朗 / 東京農業大学 准教授 下嶋 聖

雲ノ平山荘と東京農業大学は2008年から共同で雲ノ平の荒廃地の植生復元活動を行っています。

そもそも多くの登山者の皆さんはご存知ではない事と思いますが、北アルプス(中部山岳国立公園)の登山道や公園施設の日常的な維持管理はほぼ全て山小屋が行っています。しかし近年、半世紀以上にも渡って酷使されてきた登山道が、相次ぐ異常気象の影響と相俟って加速度的に荒廃が進行し、それらの修繕まで山小屋だけで受け持つのは限界を迎えつつあります。

山岳地の環境保護行政は縦割り行政となっており、有機的に機能していない面があります。本来国立公園の管理を中心的に担うべき環境省は、マンパワーの不足や予算規模の小ささなどから、登山道などの公園施設の管理が十分に行き届かないのが現状です。山岳地の多くは国有林野と重なります。国有林を管理する林野庁は、本来森林施業が中心のため、ソフト面を含む自然保護への主体的な対応が難しいです。その一方で学術機関による現地での研究活動も乏しく、問題解決につながる知見を充分に蓄積してきませんでした。

そこで私達は、雲ノ平山荘と東京農業大学の出会いを通して、それぞれに培って来た経験則や学術的方法論を活用し、これまで日本では一度も本格的に行われていない高山帯における植生復元の技術、知識の体系化を目的とした活動を展開すると共に、今後の自然公園の管理の本来あるべき姿を提案して行きたいと考えています。

■雲ノ平の自然について

雲ノ平ができたわけ

雲ノ平は標高2,400m~2,800mからなる平坦な台地で、面積はおよそ25haです。北アルプスの主脈である飛騨山脈の荒々しい地形とは対照的に、なだらかな地形を持っています。これは、雲ノ平が火山活動によってできた溶岩台地だからです。この溶岩台地は、30万年前(ホモサピエンスが現れた時代)に噴火してできたもので、噴火口は雲ノ平や祖父岳に複数あり、噴出した溶岩は粘り気をもつため、溶岩台地となりました。この火山活動によって今の雲ノ平の地形の原型がつくられました。雲ノ平火山の降灰に加え、10万年前には雲ノ平の近くにある鷲羽池火山が噴火するなど雲ノ平には多くの火山灰が降灰しました。降灰した火山灰は粘土化し、さらにその上には植物が枯死して積み重なってできた泥炭層ができ、その結果、地表の水はけが悪くなりました。これが今の雲ノ平の景観である湿性の草原ができた成り立ちです。

雲ノ平にある表土はとても貴重

雲ノ平の景観の成り立ちを振り返ると、現在、雲ノ平にある表面の土(表土)はとても貴重なものなのです。土はどうやってできるのでしょうか?土は、岩石が風化して細かくなったものに、植物が枯死したものや動物の死骸など有機物が加わり、さらに空気、水や生物のはたらきをうけることによってつくられます。通常1cmの表土ができるのに100~数百年かかるといわれています。雲ノ平の表土の厚さは場所によって異なりますが、僅か10~30cmしかない浅い表土のところや1m程度の表土の厚さがある場所もあります。雲ノ平は高山帯にあるため微生物の活動が平地に比べて鈍くなり、結果として土がつくられるスピードがとても遅く、薄い表土となっているのです。

雲ノ平の景観

雲ノ平は、亜高山帯上部から高山帯に相当します。加えて多雪地帯であり、雪が夏の時期遅くまで残るため特徴的な植生環境が見られます。台地上にはハイマツが広がり、その間を雪田草原とよばれる草原がモザイク状に分布します。湿潤な場所にはイワイチョウやショウジョウスゲなどが生育し、乾燥した場所や水はけの良い場所にはチングルマやアオノツガザクラ、中間的な環境にはコバイケイソウやハクサンイチゲなどが生育します。また草原の中には小さな地塘(地)が点在し、ミヤマイ、エゾハリイなどが生育します。台地の辺縁部など雪蝕(積雪のうごきで侵食する現象)によりできた崩壊地には、ウサギギクやヒロハノコメススキなどがみられます。生えてくる植物は、雪解けのタイミングや地質、地形などによって変わります。また雪解けが遅い場所では、たとえ種があっても発芽から結実までの時間が短すぎるため砂礫地となります。雪解けが早いと茎の高い草原となり、その中間は、雪田植物となります。



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