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雲ノ平山荘

■雲ノ平 特集 読み物:2009年~2010年 新雲ノ平山荘新築工事について(1)

2009年~2010年
新雲ノ平山荘新築工事について(1) 2/3

二百年

大げさな事ではなく、建てるからには二百年位は持つものにしたいと思った。個人の生涯の単位を超えて、長い年月の中で雲ノ平の自然と一体化する建築。訪れる人が玄関に足を踏み入れると、より穏やかで澄み徹った気持ちで雲ノ平の自然と向き合えるような小屋になってほしいと思う。風土と同じ時間の流れを持ち、建物が自然を捉える視点そのものになるという事だ。良い物は古びるほどに当初の作為から開放されて透明な美しさを持てる。そして新しい小屋もそのようになるまで頑丈に建っていなくてはならない。

雲ノ平山荘と水晶岳

日本の建築として

木造建築は言わば日本のお家芸だ。個人的な思いに過ぎないが、それはどこかで自然に対する信仰に近い感覚を抜きにしてはありえないように思う。 必要最低限の資材量で最大限長持ちさせる合理性を持ち、基本が木と言うデリケートな素材の性質上、まずは素材と立地環境の特性を確実に見極める事が前提となる。 そして建物自体が自然環境と呼吸を同調するように、木材を生きたものとして組み上げる感覚、木材を扱う技術や道具の多彩さ、装飾性とは一線を画するところでの―陰影や質感のあくなき追求とでも言うのか―独特な仕上げの美意識など、世界でも他に類を見ないものではないだろうか。 どこかで幾何学的な森の再現のようだとも思う。きっとそれは日本の風土の、自然と人間との距離の近さや自然の懐の深さ(素材の豊かさ)などがあってこその事だろう。自然の中にすっぽりと人間の文化がくるまれているような感じで、文化性も人間の主観をベースに置くというよりも、如何に自然に調和するか、自然の奥に入っていくのかという志向が強いものだったと思う。 だから今残る古い建築の多くも、個人が気儘に生活を飾りたてたり、楽しんだ形跡、生活感と言うものはあまり無く、あくまでも基本は家を究極の道具(もしくは自然の一部)として大切に使う、いわば機能美(自然美)に徹している感が強いのではないだろうか。そのような日本建築の文化性を軸に設計の構想を具体化した。

雲ノ平山荘の木材

構造

構造は主に立地環境と機能性によって決まると思う。 雲ノ平の環境の大きな特徴はまずは積雪。冬季にはおそらく7~8mの積雪があり相当な加重が小屋に掛かる。もうひとつは地面からの湿気。地表面に水を含みやすい地質の為縁の下が傷みやすい。旧雲ノ平山荘もその2つの主な要因によって修復困難な状態に至ったといえる。また大きさも重要な点で、間違えれば積雪などの環境に対する弱点になるばかりか、機能性に破綻をきたすことにもなる。また営業規模は現状を維持する程度にしたかったので、切り盛りする従業員数や小屋のメンテナンスの事等の将来性を思えば大きすぎる事は避けたかった。そのようなバランスもはじめに考えた。

旧山荘は主家にトイレや乾燥室など幾つかの下屋を建て増した多棟構造になっており―これはある意味で旧来の山小屋の避けがたい典型で、昔は一気に大規模な工事を行えなかった事や、営業規模の大きな変化などが主な原因だと思う―その各棟の継ぎ目が様々な事で弱点になっていた為、今回は主家をひとまわり大きくして一棟で完結する建築にしたいと思った。宿泊定員はおよそ2割増し程度にした。屋根の形状は積雪にも風にも強い以前の形状を踏襲し、それを今度は骨太な日本建築の構造で組み上げることにした。基礎はコンクリートで出来る限り強靭に作り、更に縁の下に1m以上の空間を取る高床式にすることで足元の湿気を散らした。縁の下の空間にはトイレの浄化設備や電気設備の一部を配し有効利用した。多少背は高くなってしまうが、積雪の多い環境(均等な加重に限るが)ではそれは不利には働かない。その辺は水晶とは対照的といえるかもしれない。また基本となる木造部の詳細は僕の書いた間取り図を元に、耐久性を最大限出すべく伊藤棟梁、篠氏と相談して決めたことだ。伝統工法を駆使した木組みは建築に興味の無い人でも見ごたえのあるものになっているので、是非ゆっくりと御覧いただきたい。尚、一棟完結の例外として高床構造の為高くなった玄関の導入部(階段)に絡めて、奥にある食堂への導線をかねたテラスを南側に作った。これにより以前は這松に遮られていた南側の視界が開けて、庭園と山々の素晴らしい景色が見通せるようになった。2階東側(水晶岳側)のベランダも旧山荘に習って今年建設予定(2011年6月完成)だ。

雲ノ平山荘のテラス
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